認知症の方への対応法

※この記事は2010年から2014まで北米報知紙上で連載されていたコラムを再掲載したものです

ご家族の方、親しいご友人が認知症を患い介護するのはもちろん、訪問したときも認知症患者との応対に困ったことはありませんか?認知症の症状自体はゆっくりと悪化の下降線をたどっていきますが、日々その方の症状の出かたというのは違ってきます。

もし介護している方でしたら、お解かりかもしれませんが、その日の調子がよくなくても、次の日、次の週には少し良くなったりもします。訪問される方 は、前回の訪問時に患者さんの妄想が激しかったり、会話が全くできなかったりと、対応がわからなくて困ってしまったので、次回訪問するのは気が引けてしま うということもあるかと思います。しかし、波はあるものなので毎回同じ状態ではないはずと思うようにしたり、同じような状態でも何か少しでも違った感じ方 を自分で心がけてみるのも良いかもしれません。今回はそのようななかなか予測も難しい認知症患者への対応法についてみてみましょう。

一番大切な認知症患者への対応のルールは、感情の起伏、特に怒ったり、悲しんだり、声を荒げたり、というような雰囲気をできるだけ出さないことです。これ は、口で言うのは簡単ですが、行動にうつすのはとても大変なことです。特に介護者にしてみると、毎日顔をあわせている、もしくは家族の色々な過去の柵も あって、難しいかもしれません。しかし、認知症患者というのは、新しい情報を上手く脳の中で整理して記憶する能力は徐々に低下していきますが、相手の顔の 表情を理解する能力は驚くほど維持していきます。どういうことがここで起きやすいのでしょうか?例えば、何度も同じ間違いをして怒られたとき、患者さんに とっては、どんな理由で怒られたのか記憶に残りませんが、怒られたということは理解します。つまり、介護・訪問する側にしてみれば、忘れるので何度も言っ ていることを患者さんは全く聞いたこともないような対応をとられて、「いつもいっているでしょ。どうしてできないの?」と強い口調で言うという出来事も、 患者側からすると、「どうしていつもこの人は怒っているんだろう?」ということしか、印象に残りません。結果的に、私はいつも怒られている、あの人(介護 者や訪問者)はいつも機嫌が悪いということになってしまいます。そうなると、患者さんの感情の起伏も激しくなりますし、意味は理解できないけど怒られない ようになり、被害妄想の増幅や、介護・訪問者に対して怒りっぽくなったり、塞ぎ込むようになる症状もより出てくるでしょう。

話が少しそれますが、介護する側が何度も言うことで溜まってしまうストレスは、患者さんの住まいにわかりやすく大きな文字で書いて貼り、もしそれで も同じ間違いをしてしまっても、明るい声のトーンで「ここに書いてあるじゃない」というように、少しとぼけたように責めるような印象を与えないようにする ことで、患者さんの対応も変ってきます。

認知症になると、一番影響を受ける記憶は最新の出来事についてです。ですから軽度な認知症の患者への対応は、子供のときや若いころのお話を介護・訪問して いる人が積極的に質問をして、古い記憶一緒にを掘り起こしていくお手伝いをしていくという感覚で会話を進めたらどうでしょう。普段忘れっぽくなっていて不 安になっている心境かもしれませんが、患者さんも自分の記憶の中でハッキリしていることを話すことになるので、それだけでも安心感を与えてくれるもので す。引き出しの中から思い出の品を見つけるような嬉しさを感じながら、昔の記憶をたどっていくという作業は脳の活性の助けるものです。こちらに長く住んで いる方ですと、戦争経験、戦後の混乱期など辛い思い出も話に出てくるかもしれません。何度も同じ話を繰り返すかもしれませんが、聞く側はなるべく楽しいも の、もしくは嬉しい思い出に焦点をあてて会話を組み立てるようにするのがいいと思います。患者さんの顔の表情にも少し注意を払いながら、楽しそうな・嬉し そうな表情をした話題を詳しく聞いてみるというのもいいでしょう。もし、年上のご家族の場合などは、その方の若い頃の話、その他自分の知っている親戚の若 い頃の話など、聞く側にとっても楽しめる会話になるかもしれません。

重度の認知症になると、なかなか会話が成立しない、もしくは質問形式で聞く側が取り組んでも、患者さんがストーリー性を持った答えができなくなるでしょ う。そういう時は、以前聞いた話を聞く側が患者さんに思い出してもらうような形で話しかけて、患者さんの答えがシンプルに「そうだったね」となるような対 応の仕方がいいでしょう。

このように、認知症患者への対応というのは、対応する側にとってもストレスがかかる大変なことです。そのことをしっかりと受け止めて、介護者は一定の休憩 をとったり、気分転換を積極的にしていくことが、介護の成功の秘訣です。訪問者は、訪問前は自分の気持ちを落ち着かせること、訪問後には辛いことを話せる 人と時間をとって自分自身のケアを大切にすることが、最終的に認知症患者へ還元されることになるのでしょう。

著者:上田大二郎

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