COVID-19による影響と心のケア

今日は、JIAメンバーであり、Foryu Furnishing のオーナーでもあり、The Seattle School of Theology & Psychology でカウンセリング心理学を学んでいる藤原宏美さんにご寄稿いただいたコラムをお届けします。

Dr. Bessel van der Kolkはトラウマ研究と治療で世界的に有名な精神科医ですが、彼が最近自分のウェブサイトから30分ほどのビデオを発信しました。コロナウイルス拡大によって私たちが置かれている現在の状況がトラウマになる可能性を多く含んでいること、けれど、この状況を一人一人がどのように受け入れ、対処していくかによって、心身への影響を軽減でき、この不安な時期をうまく乗り越えていくことができるかを具体的に提案してくれています。

現在トラウマを中心にカウンセリング心理学を学んでいますが、私自身の今の生活に活かせることが多くありましたので、ぜひ皆さんにもお分かちしたいと思い、私なりにまとめ、少しコメントを加えてみました。参考にしてみてください。直接彼のビデオをご覧になりたい方は、こちらへ(サインアップが必要です)

まず、トラウマにつながる条件というものをいくつか挙げます。

  • 予測がつかない、先が見えないこと。
  • 動きがとれない。
  • 人とのつながりがなくなる。
  • 感覚が麻痺してしまう。
  • 時間の感覚がなくなる。
  • 安心感を失う。
  • 目的を失う。

 そして以上の条件が含まれている現在のコロナウイルス騒動の状況は変えることができなくても、個人的にこれらの条件の逆をいくことを努力すれば、ストレスの影響を軽減することができるというのです。ひとつずつ見ていきましょう。

予測がつかない、先が見えない

コロナウイルス拡大による自宅待機令がいつ解禁になるかわからない、どこでどのように感染するかよくわからない、この先経済的にどの程度の深刻な影響を受けるのかわからない、など今の状況はまさに最初の条件にぴったりですが、これはどうしようもないことです。けれど、私たちにできることは、自分個人の生活を予測のつく、規則正しいものにすること。自宅にいる生活だとどうしてもリズムが乱れがちになりますが、こういう時だからこそ、起床、就寝の時間を決めて守ることが大切。例えば、朝の9時には体操をする、散歩に出かける、12時には昼食を作って食べる、夕方5時にはテレビのニュースを見る。月曜日にはヨガのクラスをオンラインで、水曜日には友人とZoomで話す、金曜日にはテレビ映画を見るなど日々の、週のルーティーンを作ること。大切なのは、毎日楽しみにすることを予定すること。見えるようにカレンダーに書き込むと良いかもしれません。

動きがとれない。

これも今の状態ですよね。なるべく外出をしないように促されているのですから。けれど、心がけて体を動かすことは精神衛生上とても大切なことです。体の動きと脳の働き、心の感じ方は緊密につながっています。不安な気持ちが続いていると、知らず知らずに体に不安を溜めていることになります。肩や首が凝ったり、体に痛みが出たり、胃腸の調子が悪くなったり、眠りが浅く、疲れが残ったりしていませんか? 私の場合は、ストレスがあると皮膚に影響が出やすいようです。
 
さて、この時期に体を動かすにはどうしたら良いでしょうか? 世間のコロナ騒動とはうらはらに自然は淡々と営みを続け、美しい春の花々が咲き乱れるこの季節、散歩は最適。晴れ間も多くなりましたし、少々小雨でも、レインコートを来て近所を探索しましょう。庭仕事をして土に触り、芽吹きの匂いを嗅きましょう。掃除も良い運動です。van der Kolk先生は特に、ヨガ、太極拳(Tai Chi)、気功(Chi Kung)、呼吸法など、不安な感情をおさえ、心身に調和をもたらすような体を使っての練習を特に勧めておられます。最近はYoutubeなどで英語、日本語でも無料のレッスンがたくさん出ていますから、どうぞ検索してみてください。

人とのつながりがなくなる。

これもまさに今の状況。人と接触しないようにと言われているのですから。人間はもともと、家族やコミュニティーの中で生きるのが自然で健全な姿で、孤立しては生きていけない存在です。普通に外で人と接しているときには気が付かないかもしれませんが、人の顔を見ること、自分の顔を見られること、表情や言葉によって、人と共感したり、一緒に笑ったり、嬉しいことを報告したり、それは大変だね〜と聞いてもらうことは人間の精神にとても大切なことです。私たちの体と脳は、目の前にいる人の体と脳にも影響を与え、お互いに波長を合わせる力を持っています。
 
幸いなことに、現代はZoomや LINE、 FaceTimeなどで相手の顔を見て離れた人と話すことが可能です。ぜひそれらを利用して、大切な人たちとつながりを持ち続けてください。家族と同居しておられる方は、一緒にゲームをしたり、料理を作ったり、家の整理や模様替え、修理を一緒にしたり、歌を歌ったり、アルバムの整理をしたり、ゆっくり散歩したり、と普段なかなかできないことを家族でできる機会です。一緒にするというのが大事なようです。また、一人暮らしの家族や友人、近所の方をご存知なら、電話やメール、たまには手書きのカードで連絡してあげてください。

感覚が麻痺してしまう。

普段の行動範囲が狭められ、人ともほとんど顔を合わせず、この先どうなるのか不安だという精神的緊張が続くと、心身にいろいろな影響が出てきて当然です。しかし、それに気づくことなく、又はわざと見過ごしていると、心や体が訴えている大切な感覚が麻痺してしまいます。麻痺の反対はそれに気づくこと、いわゆるマインドフルネスと言われるものです。自分の体や心が何を感じているかを、ふと立ち止まって気づいてやる、そしてそれを受け止めてあげるという、自分に対する優しさ、思いやりとでもいうのでしょうか。例えば、体のどこかに緊張や痛みがあるなら、そこへ深い呼吸を吹き込んでやる、そこを自分の手で優しく撫でてやる、またそこをほぐすためのストレッチや体操をしてみる。心にイライラや不安があるなら、それがどこから来ているのか、ゆっくり考えてみる、日記に書いてみる、信頼できる人と話してみる。大切なのは、何かが自分の中で起こっていると感じたら、それに気づいて立ち止まり、思いやりに満ちた目で覗き込んでから、なんらかの選択をしていく。そうして自分のために何かの選択をしていくと、どんなことをすると気持ちが晴れてくるか、生き生きしてくるかがわかってくるはずです。逆にどんなことをしないと気持ちが落ち込んでくるかもわかってきます。

時間の感覚、安心感を失う。

トラウマの結果として時間の感覚が失われてしまうということがあります。例えば、なんらかの引き金になるような出来事が、普段は意識の奥に隠されているような過去のトラウマのフラッシュバックを引き起こし、今まさにトラウマが起こっているような心身の反応を経験することがあります。今回のコロナウイルスの影響について言えば、今置かれている状況が一時的なものであるのにも関わらず、この影響はいつまでも続くのではという不安に襲われたりします。特に健康や、経済的な不安を抱えておられる方には、これは確かに一時的でないかもしれない切実な不安です。

このような不安を感じ、なんらかの不快な思い(例えば怒りや恐れ)に襲われるとき、それに気付き、観察して、そこに深い息と思いやりを送ってやる、これは前の項で述べたことに関連しています。そしてその不安や不快な気持ちを取り去らなければ、抑えなければという敵対心を持って近づくのではなく、気づいて見守り、理解してやる、そういう親しみの気持ちを持って接すると、徐々に不安や不快な一面が自分の中にあっても大丈夫なのだという心の器が広がります。

また、不安なときにどんなことをすると落ち着きますか? 例えば、あなたはどんな音楽を聞くと穏やかな気持ちになり、誰と話すと落ち着き、どんなことをすると高ぶった不安が収まるでしょうか? 日本人には抱擁の苦手な人も多いですが、親しい誰かが手を握ってくれたり、頭や肩に触れてくれるとほっとしたという経験はありませんか? 思いやりを持って体に触れてもらうことに力がある証拠です。一人で住んでおられる方にはそのように人と体を触れ合わすことができないのが今の状況ですが、自分の内を自分の意識によって思いやり、優しく触れるとは可能なのです。

また逆に、家の中に子供も家族もずっと一緒で、一人でほっとできる時間や場所がないというのも今の状況かもしれません。ひとり退いて、ほっとできるスペースをどのように作っていったら良いでしょうか? 居間は共有することが多いスペースですが、例えば自分のベッドルームにいるときには、誰も入ってこないよう約束してもらう、同じ部屋にいても、この椅子に座っているときには仕事をしているか本を読んでいる時間だから話しかけないように、また一つの部屋を時間を決めて順番に使うなど、工夫は可能です。一人で散歩に出かける時間が自分と向き合うゆったりした時間になるかもしれません。

残念なことですが、COVID-19の影響で家庭内暴力(DVドメスティックバイオレンス)が増えているという報告を聞いています。ご自分やご家族に身の危険を感じる方は24時間のホットライン(425) 746-1940 or 800-827-8840に連絡してください。通訳あり、日本語スタッフもいるそうです。

はあとのWA!にも役立つ情報があるので参考にしてください。 
http://www.heartnowa.net/dv/

目的を失う。

コロナウイルスの影響で職を失った方、仕事ができず自宅で待機しておられる方も多いと思います。生活の糧のみでなく、人生の目的を失うほど人を揺らがすものはありません。できることが限られ、普段自分がしている仕事や活動とは違っていても、自分の経験や能力、与えられている状況を生かし、この不安な時期に自分がどうありたいか、何をしていくかを選び取っていくかは、今私たち一人ひとりに与えられている課題です。外の状況をコントロールすることができませんが、日々何を選び取って生活するかは私たち次第です。
 
友人でマスクをたくさん作り病院に寄付しておられる方がいます。ローカルのレストランを支援しようとテイクアウトを募り届けている人がいます。年配の方に代わって買い物に行き宅配しておられる方がいます。音楽的好きの人たちが、インターネット上で歌や演奏をシェアしてくれています。私が、尊敬するトラウマ研究者の提案を皆さんにお伝えしてみようと思い立ったのも、この普通でない生活の中に何か意味のある目的が欲しかったからだろうと思います。

ここまで読んでくださった方々に感謝します。

藤原宏美