アメリカ短期滞在、医療保険をどうするか

※この記事は2010年から2014まで北米報知紙上で連載されていたコラムを再掲載したものです)

留学生やビジネス目的などで数カ月から数年間滞在する日本人にとって悩ましいのは、医療保険をどうするかという問題です。

周知の通り、アメリカの医療費は日本とは比較にならないほど高額です。日本の国民健康保険加入者であれば、海外での医療費を払い戻してくれる制度がありますが、日米の医療費の金額に格差があるため、実質的にあてにできる方法ではありません。

今回は、短期滞在で職場や学校などの団体から保険が得られない人が、コストを押さえながら医療保険を備えるための方法を紹介します。

(1)長期滞在者向け

最も一般的な方法は、出発前に日本で、損保各社の提供する長期海外旅行保険を購入することです。損保の営業担当者に頼めば、滞在予定期間と、保障金額の希望額とを合わせて、オーダーメイドで保険を作ることができます。滞在期間がはっきりしており、既往症をカバーする必要がない場合には、以下で紹介する、アメリカで現地の保険に加入する方法より、安くつくことが多いです。
選ぶ際の注意事項は以下の通りです。

(A)病気とけがの治療の支払い限度額(保障金額)

まず考えるべきなのは、病気とけがの治療の支払い限度額(保障金額)についてです。もっとも必要になる可能性の高い、病気とケガの治療費を、それぞれ最大いくらまで必要だとみておくかが保険料を決める最大の柱になります。

保険会社の保障項目のリストには、オプションのような項目がいくつもあります。死亡や後遺障害をどこまで必要とみなすか。賠償責任や弁護士費用はどうか。あるいはテロ等対応費用、救援者費用、携行品、緊急一時帰国費用は、などオプション的な項目は多様です。当然、あれもこれもと加えるほど、保険料は上がります。

なにを省くかの判断は、価値観の問題になると思います。たとえば救援者費用。日本から家族に来てもらう必要のある病気やけがをする確率がどのくらいあるのか。緊急一時帰国の可能性は? 不安材料は挙げればきりがありません。けれども確率のかなり低いことが実際に起きてしまった時には貯金で対応すればよいと考えれば、冷静に検討することができるでしょう。

逆に、オプション費用の保険料は、病気とけがの治療への保険料に比べると、負担金額が小さいので、心配なら思い切ってかけておくという選択もあるでしょう。

(B)キャッシュレス・サービス対応病院との距離

念のため、契約前に確認しておきたいのは、キャッシュレス・サービスに対応してくれる病院が自宅から便のいい場所にあるかどうかです。キャッシュレス・サービスに対応していないと、いったん実費を病院の会計で支払った上で、後に請求するという手続きが必要で、非常に面倒な事態になりかねいからです。

シアトルなど大都市には病院が多いので、問題はないでしょう。けれども病院の少ない地域の場合は、保険会社に近所の病院との間でキャッシュレスサービス対応の交渉をしてもらえるかどうかを確かめた上で、契約した方がよいと思います。

◎個人的体験談

私は2010年、はじめて渡米した時には、不安が大きく、いろいろとかけました。14カ月滞在で18万円かかりました。しかし結局、使ったのは、1回皮膚に発疹ができた時に通院しただけ。その経験をふまえ、次は何パターンか見積もりを出してもらった結果、思い切って割り切りました。

病気とけがの治療、後遺障害にそれぞれ500万円。死亡保障はなし、その他オプションも一切なし。三井住友海上火災の営業マンに依頼して、滞在予定10カ月間で11万円弱でした。

(2)短期滞在者向け

滞在が3カ月以下の方には、海外旅行保険付きのクレジットカードを用意しておくという方法があります。
インターネットで調べれば、いくつも海外旅行保険付きクレジットカードの情報がでています。年会費無料、でありながら海外旅行保険が付いているというカードもあるのです。

保険部分については、クレジットカード会社が運営しているのではなく、大手損保がサービスを提供しています。各種項目の保険による支払い限度額を見て、用意しておくと便利なこともあるでしょう。

ただこれも、選ぶ際には注意点があります。

(A)自動付帯か利用付帯か

旅行費用をそのカードで支払わなければ保険が付いてこない(利用付帯)カードと、そのカードで支払ったかどうかに関わらず、保険が付いてくる(自動付帯)カードがあります。旅行費用をすでに払ってしまっていたり、そのカードで払う予定がない場合は、自動付帯のカードを選ばなければ意味がありません。

(B)キャッシュレス・サービス対応かどうか

損保の商品を買う場合と同様、キャッシュレス・サービスに対応しているかどうかは、使い勝手を考える上で重要です。

◎個人的体験談

短期滞在の時には、条件付きで年会費無料のKCカード(病気、ケガの治療が各200万円)、年会費3150円のセゾンブルー・アメックス(同300万円)の2つを用意しました。どちらも海外旅行保険は自動付帯です。ただこれらのクレジットカード付帯保険は、まだ必要が生じておらず、使ったことはありません。(*1)

(3)妊娠、既往症|日本の除外条項をカバーするためにアメリカの保険に入る

長期滞在、短期滞在いずれにせよ、保険を選ぶ際に認識しておかなければならないのは、これら日本の損保会社の提供する海外旅行保険では、保障を最初から除外されている事態がいくつかあります。

女性の場合、こちらで妊娠してしまった場合、妊娠や出産に関わることは基本的にカバーされません。また既往症のある人は、その部分に関する医療費は保障されません。

それらをカバーするには、アメリカの保険に入るという方法があります。(*2)

(A)妊娠、出産

アメリカの保険の中には、妊娠や出産の病院代をカバーする保険があります。

たとえばセブンコーナーズ社(Seven Corners, Inc.)(*3)のinbound immigrantは、上限2800㌦までの医療費を保障しています。

同社のエージェントのサイトによると、「渡米前、もしくはアメリカに到着してからなら、到着後24カ月以内に購入することが条件です」とのこと。

(B)既往症

既往症も、必要な場合はアメリカで個人の加入できる保険に入ることで、カバーができる場合があります。

LifeWise(*4)という保険は、ワシントン州の住民であれば、既往症があっても個人で加入できる保険です。(ただし既往症については、最初の9カ月間は対象となりません)。電話で問い合わせると、この保険に加入できる既往症かどうかが分かります。

また重い既往症を抱える人には、州の用意するWashington State Health Insurance Pool(*5)という、既往症のある人向けのサービスに加入するという方法があります。担当窓口に問い合わせたところ、まずLifeWiseに申し込み、却下されてから、その却下書類を以て申し込みの手続きをするとのこと。

保険金額は高額になりますが、どうしても必要な場合の手段として検討する余地はあるでしょう。サイトに保険金額が出ていますので参考にしてみてください。

1.海外旅行保険付きのクレジットカードまとめサイト
http://w269.o.fiw-web.net/creditcard.htm#1
ж ただし最新情報が更新されているかどうかは分かりません。契約する
前には、必ずカード会社のサイトで契約条項を確かめてください。

2.日本語で読めるサイト「海外旅行保険--旅行者、留学生、駐在員、インターン、永住者、移民のためのアメリカ医療保険」の
「アメリカ移民用健康保険・長期滞在者用医療保険」欄

www.kaigairyokouhoken123.com/immigrantmedical.html
ж このサイトには、親を呼び寄せる際など様々な保険が紹介されています。

3.セブンコーナーズ社 inbound immigrantのサイト
www.sevencorners.com/insuranceplans/immigrantmedical/Default.cfm

4.Lifewese www.lifewisewa.com/
電話: 800-592-6804

5. Washington State Health Insurance Pool www.wship.org/
電話 800-877-5187

【長田美穂】
筆者略歴:ジャーナリスト。新聞記者を経て99年よりフリーランスに。2010年10月にフルブライト奨学生としてUniversity of Washington のVisiting Scholarに。2012年よりアメリカの性犯罪など、社会、経済をテーマに取材執筆を始める。